「中の人」からのレスポンス(SUSE との出会い編)
実は私、コンピュータそのものに本格的に触れるようになったのは、すでに40代になってしまっていた後のこと。それまでは、当時勤めていた出版社で、共有のパソコンをたまにいじるくらい。やることも単に原稿の入力(当時、出版業界にも DTP の波が押し寄せ、原稿用紙に手書き、というスタイルがなくなりつつありました)くらいで、コンピュータの中で何がどうなっているのかまったく理解もしていませんでした。
そんな私の家にパソコンがやってきたのは2001年の半ば頃。「インターネットやメールがしたい」という家内に押し切られ、彼女の友人氏からタダでいただけるということでもらった Windows 2000 機(IBM の Aptiva)が、我が家の第1号機ということになります。(ちなみに、その Aptiva は今でも現役で、我が家のルータとしてその存在感を示しつづけています)
その当時すでに Linux という OS が存在することは聞き知っていて、「世界中のボランティアが寄ってたかって開発を進め、誰でも無料で使える」ということに興味を惹かれていた私は、「どうせイチから覚えなければいけないのだったら、苦労するのは Windows でも Linux でも一緒だろう」「だったら、Linux から先に覚えてしまおう」と、逆にな〜んにも知らないことを武器に、いきなりの Linux 生活に突入してしまいます。
最初にいじった Linux は、Vine Linux 2.5 でした。Web 上で調べてみたら「日本語環境やドキュメントが充実している」という情報があり、何よりも、何種類か購入した「Linux 入門書」に付いていた付録のインストール CD を試したところ、Vine だけが戸惑うことなく素直にインストールできたので選択しました。(インストールしたのは、すでに我が家のパソコンとしては2台目の、Windows XP がプリインストールされたパソコンでした。つまり、いきなり NTFS パーティションを縮小して空き領域を作り、デュアルブート環境を作る…という作業を行ったことになります)
さて、Vine でちょっとずつ Linux の勉強を進めていた私でしたが、大学時代ドイツ文学を専攻していたこともあり、ドイツ発祥だという S.u.S.E. (当時はこの表記が一般的でした)というディストリビューションがあることを知り、なんとなく興味を抱くようになっていました。
とはいえ、当時はまだ Web で調べてみても S.u.S.E. に関する日本語情報はあまりヒットせず、また、その頃は無償バージョンをインストールする場合は FTP インストールしなければならなかったこともあってやや敷居が高く、Vine から乗り換えよう、とまでは考えられなかったのが実状です。
そんな折り、SuSE のバージョン 8.1 がリリースされた際、LiveEval という、いわゆる LiveCD が合わせて公開されました。そのころ、KNOPPIX という 1CD の Live ディストリビューションが注目されていたこともあり、「お試し」しやすいようにと作られたものだと思います。これだったらハードディスクにインストールしなくてもどんなテイストか見てみることができるな、と、早速私は飛びついてみました。
起動してみると、ちゃんと日本語は表示できるし、かねがね噂に聞いていた YaST というツールはよくできているし、非常に使い易くまとまっているディストリビューションだな、という印象。すでに立ち上がっていた日本語メーリングリストにも登録し、インプレッションを投稿してみたり。これが、私と SuSE との出会いでした。
それでも、まだすんなりと SuSE に移行できるほど当時は私の環境が整っていなかったのと、なによりまだまだスキル的に心許ないところがあり、本格的に SuSE をいじるには至っていなかったのですが、先に投稿したことそのことさえ忘れかけていた数ヶ月後、いきなりメーリングリストへ私の投稿に対するレスがポストされました。Mike さんというドイツ人、いわゆる「中の人」からのレスポンスです。
正直、びっくりしました。
Vine のメーリングリストなどでも時折鈴木代表などがポストしているのを見かけたことはありましたが、ほとんどがいわゆるアナウンスであって、個々の投稿にレスポンスすることはほとんどなかったと思います。それが、遠くドイツの、SuSE Linux 開発の現場の人からレスポンスもらえちゃうんですから。
私自身も最初はそうでしたが、Linux をはじめとする OSS を使うにあたり、「無料」に惹かれて使ってみようと思うケースは多いのではないかと思います。しかし、最近は特にそう感じるようになってきているのですが、OSS(あるいは、RMS 的に「フリー(自由な)ソフトウェア」としてもいいでしょう) の本当の魅力は「無料」にあるのではなく、「『こうだったらいいな』ということに対して能動的に働きかけることができる」ということにあると思うのです。
SUSE との出会いは、私にそのことを実感させてくれる大きなターニングポイントとなりました。